『舟を編む』
「右」を説明しろと言われたら
あなたは何と答えますか?
広辞苑第四版(古い……)によると
「南を向いた時、西にあたる方」。
日頃、何気なく使っている言葉にも
当たり前ですが、ちゃんと意味があるのです。

出版社の営業部員・馬締光也(まじめみつや)は
言葉への鋭いセンスを買われ、
辞書編集部の荒木のもとで
新しい辞書『大渡海(だいとかい)』の
編集に関わります。
完成までに費やした年月は実に15年。
その長い旅は終わることはなく、
完成した次の日から
改訂へ向けての作業が始まるのです。
彼らの物語を読むと、思います。
辞書の重さは一つひとつの言葉の重さ。
そして、それをより正確に
紡ごうとする人々の想いの重さ、だと。
電子辞書が主流となり、
辞書は手軽なものになりました。
それはそれでとても便利だけれど、
やっぱり私は紙の辞書が好き。
そんなことを思わせてくれる一冊です。
三浦しをん 著
光文社文庫より刊行
『放課後の音符(キイノート)』
私がこの本と出会ったのは
ずい分大人になってから。
10代の頃に読んでいたら
人生が少しは違っていたかもしれない。
それでも、出会えてよかったと
心から思える一冊です。

アンクレット・香水・ハイヒール・
真紅の口紅などのアイテムとともに
17歳の放課後を描いた
繊細な8編。
「私」(最後まで名前は明かされない)を通して
語られる少女たちの恋は切なく、美しい。
周りに流されず、
自分なりの立場を貫く「私」は
少女たちを優しく見守ります。
そして最後には
「私」自身も素敵な恋を成就させます。
山田詠美さんの作品には
印象的な言葉が散りばめられています。
「上等ってのはね、ハイヒールを履いても
痛くならない足を持つことを言うのよ。
それとね、足を痛めない
ハイヒールを買えるってことよ」
【上等】について
「私」と同級生に対し
年上の女性が放つ言葉。
なんて格好いい!
ハイヒールが好きだけど、
時々楽をしたくもなる。
そんな時
私はこの言葉を思い出し、
支えにして
今日もハイヒールを履いています。
山田詠美 著
新潮文庫より刊行